2020年1月15日 UP
マネジメント

【SDGs×100年経営】長寿企業が無意識に行ってきた持続可能な経営とは?

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日本青年会議所(以下「JC」)は若手ビジネスパーソンが集う全国的な組織だ。
(一社)100年経営研究機構で2017年に近江商人視察ツアーをしたときに、社長が2008年度のJC副会頭をされていたこともある有名老舗企業のたねやさんを訪ねたのが、JCと機構が関わりを持つきっかけだった。
今年度、JCではSDGs推進に取り組んでいるというが、SDGsは長寿企業の経営手法にも相通じるところがある。
今回、日本青年会議所第68代会頭 鎌田長明氏と100年経営研究機構 事務局長 藤村雄志氏が、長寿企業とSDGs経営の関係について語り合った。
 

 
鎌田長明(以下「鎌田」):JCは1951年に設立された、20歳から40歳までの若手ビジネスパーソンが集まっている全国組織です。比率としては、経営者と取締役員でおよそ3分の2を占めており、OBには中曾根康弘氏・小渕恵三氏・小泉純一郎氏などの歴代総理大臣、ウシオ電機の牛尾会長など、政財界の有名人が名を連ねています。
今年JCで重点的に力を入れているのが、中小企業へのSDGsの普及です。2016年以来全国の青年会議所で取り組みは進めていたのですが、今年1月に全国の青年会議所の理事長が集まった総会の場で、改めてSDGsに取り組む宣言をしました。

藤村雄志(以下「藤村」):当機構で2017年に近江商人視察ツアーをしたときに、たねやさんのCEO 山本社長からJCさんのお話は少し伺っております。なぜ日本には100年以上存続する企業が数多くあるのかという疑問を紐解いていくと、SDGs経営にたどり着くのではないかと思っています。
なので今回は、鎌田会頭との対談を通じてSDGsについて勉強させていただくことを楽しみに参りました。早速なのですが、そもそもJCはなぜSDGsに力を入れられているのでしょうか。

 

鎌田:JCはもともと国連とのつながりが深い組織です。かつてアメリカJCで理事を務めていたロックフェラー氏が、現在の国連本部のある土地を寄付したことをきっかけに、国連と青年会議所との関わりが生まれ、以来密接な連携を進めています。
SDGsとは2015年の国連総会で採択された文書の中に掲げられていた「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことで、そこには貧困や飢餓の撲滅、環境保護など17の目標とそれに付随する169のターゲットが盛り込まれています。
我々JCは、良い社会を作った上で経済を良くしていくために活動をしているのですが、SDGsは「良い社会」を定義づけるのに最適な目標になると考えています。SDGsは世界の人々のアンケートを取って決まった目標ですから。

 

藤村:長寿企業も、その経営手法がSDGsに近いものだといえるんです。機構では毎年「近江商人視察ツアー」を開催していて、昨年は粟津温泉を訪ねたのですが、そこでは温泉水を大事な資源として地域全体でシステム化して、次世代に引き継いでいるんです。その粟津温泉の老舗旅館「法師」の当主で御年80歳の法師善五郎さんにお話を伺ったところ、その中で「あなたたち、パリ協定がどうなっているかキャッチアップされているのですか」と当主が尋ねられたので、非常に衝撃を受けました。パリ協定とは、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めのことです。
その後、1300年続いた理由をお尋ねしたときに「私は80年しか生きていないから理由はわからないけれど、創業1300年を迎えた企業が創業1400年を迎えるには、地球があり続けないとだめでしょう?」とおっしゃっていたのを聞いて、合点がいきました。

 

鎌田:田舎にある老舗温泉旅館のご当主から「パリ協定」という言葉が出てきたのは、きっと先祖代々温泉というリソースを今日まで大事に引き継いでこられたからなのでしょうね。まさに、粟津温泉では無意識にSDGs的経営を実践されているのだと言えると思います。

 

藤村:しかし、そうはいっても経営を長く続けることも非常に難しい世の中になっていますよね。伝統産業を中心に、これまで連綿と受け継がれてきた企業の多くが今、後継者不足の問題に直面しています。今後10年以内に事業承継ができなければ100万社以上が倒産する「大廃業時代」を迎える可能性も出てくるといわれています。
機構としても、事業承継がどうあるべきかをいろいろ議論しています。鎌田さんご自身、創業者であると同時に後継者でいらっしゃいますが、事業承継問題についてどうお考えですか。

 

鎌田:事業承継のソリューションはただひとつ、経営者が65歳以上の会社を対象に、法人税を20%引き上げることです。伝統技術を持っていても法人税を払えないような赤字企業は、すぐにでも事業譲渡をしたほうがいい。伝承されてきた技術を持ったままつぶれてしまうのは、社会的損失じゃないですか。
たとえば、奈良時代に創業した、日本最古の金剛組という企業がありますよね。金剛組はずっと同族経営を続けてこられましたが、経営難により2005年から高松建設の傘下に入ったんです。これは高松建設の会長が「金剛組をつぶしてしまうのは日本の恥だ。だから高松建設が応援するのだ」と決断されたから。金剛組の技術や名前を残すことは社会的に意義のあることなので、高松建設が子会社化したわけです。もし高松建設がなくなるようなことがあっても、金剛組は形を変えて存続すると思いますよ。

 

藤村:私もそう思います。先日韓国の済州島フォーラムに参加してきたのですが、韓国でも政府主導で事業承継を行っていて、30年続くと「老舗企業」、45年続くと「名門老舗企業」と認定されるそうです。しかし、現在韓国では最低賃金を1500円に引き上げるというポピュリズムの政策がうまくいっていないためか、創業100年を超える企業が少なく、政府のデータで8社、我々の持っているデータでも17社しかありません。

鎌田:日本の企業が長く存続する理由は、経営者ではなく社員にあると思います。僕が継いだ会社も、僕が高校生の時に一度倒産しているんですよ。当時、実家では会社の整理をしていて、自分は高松に戻ることはないと思い東京で起業したんですが、実家の会社が復活してきたと思ったら、社員が僕のところにぞろぞろやってきて、「帰ってきてもらえないか」と懇願されたんです。これが、日本に長寿企業が多い理由。会社のことを大事に思っている社員が一定数いるからこそ、企業が長く続いていくのではないかと想っています。

 

藤村:戦争や災害といったリスクがありながら、今まで存続してきた企業は、いろんな環境の変化からビジネスチャンスをつかんだり、危機を脱したり、ということを無意識にやってきています。それがまさに今でいうSDGsであり、そう考えると、SDGsは日本にとって新しい概念ではないのでしょうね。我々機構の活動にして、今後もSDGsを深く掘り下げて研究をしていきたいと思います。JCが今後SDGsに関して目指されていることは何でしょうか。

 

鎌田:今年度力を入れているのが、SDGsを推進する企業を3000社作ることです。今SDGsを推進しているのは一部の大企業とSDGs未来都市を推進している自治体くらいで、全国的に取り組んでいるところはほとんどないんですよ。JCは47都道府県に694の青年会議所があるので、全国的に取り組んでいる組織としてはNo.1だと思います。SDGsに取り組む企業には、17(正確には16)のゴールの中で、自分の企業で取り組みたいものを見つけてほしいですね。今までの企業には、ゴールといえば利益を上げて株主に配当という形で再分配することしかありませんでした。しかし、自分でゴールを見つけてそれに取り組むことで、世界のだれから見ても「良い社会」の実現に少しでも近づけると思います。

 

【プロフィール】

鎌田長明(かまだ たけあき)

1980年 香川県高松市生まれ。2003年 東京大学経済学部卒業。2004年に株式会社情報基盤開発を創業したが、その後家業である鎌長製衡株式会社を継ぎ、代表取締役社長として両社の経営を担っている。2012年より公益社団法人高松青年会議所に加入、2019年に日本青年会議所第68代会頭に就任。
 

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Valmedia編集部

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