- 2017年11月1日 UP
- マネジメント
100年経営研究機構 金沢視察ツアー報告レポート
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2017年10月18日(水)・19日(木)、当機構主催 第4回視察ツアーを開催いたしました。
1年に2度行っている本視察ツアーは、実際に100年超企業を訪問し、現当主からお話を伺うなかで、“長寿経営の秘訣“を学ぶことを目的としています。
今回の訪問先は、加賀100万石 前田家のお膝元「金沢」です。
1300年の歴史を誇る温泉旅館“法師”、金沢最古の料亭“つば甚”、350年の伝統を守る“大樋焼”、地元企業の永続を支える“北國銀行”を視察し、「なぜ、永く続くことが出来たのか」「永く続けるための秘訣は何か」について伺いました。
それでは、当日の様子と実際の学びについてレポートしていきます。
10月18日(水)の昼過ぎ、加賀温泉駅前にツアー参加者が続々と集まりました。今回の視察ツアーは、全国各地より経営者や研究者の方にお申込みをいただき、総勢17名での開催となりました。
加賀温泉駅からバスで移動すること20分、一行は温泉街へと足を進めます。“法師旅館”のある粟津温泉郷です。
法師旅館へ到着後、事務局から視察ツアー開始の挨拶と参加者の皆さまから自己紹介をいただいた後、後藤俊夫代表理事の講義へと移っていきました。
後藤代表理事の講義では、今回の視察先の事前学習として、“法師旅館”、“つば甚”、“大樋焼”の概要と視察のポイントについてお伝えしました。永く続く企業には“山や谷”が必ずあります。「その実態については、直接現当主に伺ってみましょう」と言い、続いて法師46代目当主 法師善五郎氏に講義をお願いしました。
養老二年(718年)に誕生した法師旅館は、来年2018年にちょうど開湯1300年を迎えます。
46代目当主は冒頭、次期当主となるはずだったご子息を数年前に亡くし、本当に辛かったと当時を振り返りました。生まれた時から当主になるための教育を施し、現当主を支えるまでに至っていたご子息が先に逝ってしまった。しかし、今自分は“生かされている”のだと強く感じている。この世の中には、目に見えない大きな力が働いており、その力によって人は生かされていて、必ず自分の“生”には意味があると力強く話されました。
法師が1300年も続けてこられたのは、一重に各代の当主が「預かったものを少しでもよくして次へ渡していこう」という意識で取り組んできたからにほかなりません。
法師は古くから“湯治宿”として人々に親しまれており、皮膚病も治す程、絶大な効果があると言われています。つまり、こうして旅館があり続けられるのも粟津の源泉が湧いているからなのです。
当主に代々受け継がれる「温泉を大事に。」すなわち「水を大事に。」という精神を守り続けていることも法師が永く続いた一つの要因と言えるでしょう。因みに、代々の女将は「火の元を管理する。」すなわち火災を起こしてはならないということを代々受け継いでいるそうです。
こうして1300年間、伝統を守り続けてきた“法師”ですが、46代目当主は「伝統とは、“変化に対応”していくことだ」といいます。
つまり形を変えないことが伝統ではなく、時代に応じて形を変えていくことこそが伝統だ、ということです。ただし、本当に変えてはならないものは守り続けていきます。それが“法師”にとっては「水を大事に。」「水から(=自ら)学ぶ。」という精神なのでしょう。
46代目当主のお話のあとは、公益財団法人前田育徳会会長 石田寛人氏より加賀100万石前田家の歴史と金沢文化への影響についてお話を伺いました。
加賀前田藩は、武力ではなく「文化で天下統一」を目指した藩だ、と石田氏は強調しました。
江戸時代初期、外様藩でありながら100万石もの領地を徳川家から守り通すことは極めて困難な時代でした。
そこで前田家のとった政策が「武」ではなく「文」に力を注ぐことです。「戦う意思はありません。そのような武器は持ちあわせておりません。」ということを主張するためには、文学や芸術に財力を注ぐことで徳川家の目を欺くしか方法は無かったのです。
金沢文化は前田家5代目の前田綱紀の代に花開いたと言われています。彼は非常なコレクターで京文化を積極的に取り入れ、この頃に2日目訪問予定の“大樋焼”も金沢へ入ってきています。
金沢文化とは、徳川から身を守るために始まり、「武力で天下統一できないのならば文化を持って天下を統一しよう」という前田家当主の志が成したものだ、と石田氏は語りました。
後の2日目の視察先にて、この前田家の在り方が金沢の企業に大きな影響を与えていることが分かります。
石田氏のお話のあとは、お待ちかねの夕食会です。
当機構の大高英昭副代表理事より乾杯の挨拶を行い、北陸の旬料理に舌鼓を打ちました。参加者も席を移動して他の参加者や当機構の理事達とも積極的に懇親を深めました。
夕食後は、各々二次会を楽しんだり、温泉に入り直したり、庭を散策したりと法師旅館の悦を堪能しました。
2日目早朝、6:45より46代目当主の法話を聞き、朝食後、名残惜しくも法師旅館を後にし、一行は視察先である“つば甚”へと向かいました。
宝暦二年(1752年)創業の“つば甚”は、金沢最古の料亭として親しまれています。
ゆったりとしたおもてなしや伝統的な季節料理は勿論のこと、金沢文化をふんだんに取り入れた空間、日本家屋を守る優雅な佇まいが多くの賓客の心を掴んでいます。
今回は、16代目女将である鍔正美氏より「“つば甚”長寿の秘訣」についてお伺いしました。
冒頭、現女将は「“どうして永く続くことが出来たのか”は分かりません。それぞれの代が橋渡しをした結果、続いていただけです」と謙虚な姿勢で話されました。
高級料亭と言われる“つば甚”ですが、現女将が先代から守るように言われたことは一つだけ。「今を一生懸命生きなさい。そうすれば自然と橋渡しが出来ているから」という言葉だったと言います。
故に現女将はそれだけは守ろうと、たくさんの失敗を繰り返しながらもひたすら一生懸命に生きてきました。
「私は主人に嫁いだのではなく、“つば甚”に嫁いだのです」と言い切る現女将の姿勢は、一本筋が通っているように見えました。
そもそも“つば甚“は、本業を隠すために小亭を営んだことから始まります。“つば甚”の先祖は前田家お抱えの“鍔師”であり、刀を作る際に必要な鍔を作ることを本業としていました。しかしながら、徳川の圧政を回避するためには軍需産業を表に出してはならなかったのです。そのため、鍔師は裏稼業とし、表向きは小亭を営むことになるのですが、この小亭が繁盛し、やがて藩主にもその評判が伝わるようになると、金沢の迎賓館としての役割を担う“料亭“へと進化していきました。
現女将は、様々なお話の中でも「お客さまは神様です」という部分を強調しました。
ただし、それはお客さまならば何をしても良いということではなく、相互に敬う関係であることが重要です。私達もお客さまを敬い、お客さまも私達のことを敬う、そういう関係がしっかりと築けているからこそ、私たちは苦難があっても永く続けてこれたのではないでしょうか、と現女将は話されました。
お話のあとは、様々な客室を見学し、実際に伊藤博文や芥川龍之介が滞在したという部屋にも足を踏み入れました。今が平成の時代であるということを一瞬忘れてしまいそうなその佇まいは、息を呑むほど美しい、金沢文化の象徴を見ているようでした。
つば甚視察のあとは、104年続く兼見御亭グループが運営する茶屋“見城亭”にて昼食を取り、一行は次の視察先である“大樋美術館”へと向かいました。
迎えてくださったのは、大樋焼11代目当主の大樋年雄氏。
11代目当主の解説を受けながら、まずは“大樋美術館”に展示してある様々な作品を鑑賞しました。美術館には代々の大樋焼作品のみならず、大樋焼を応援している偉人の作品や現当主が作った次世代風な作品など、様々な芸術品が飾られており、大樋焼は一概に過去の文化を受け継ぐ焼き物ではなく、現代アートと同じ芸術であるというメッセージを受け取りました。
美術館を一通り回った後は、茶室にてお菓子とお抹茶を頂戴しながら、“大樋焼”についてより深くお話を伺いました。
そこで、現当主は「ただ変えずに守るのが伝統ではなく、挑戦しているからこそ変えてはいけないことに気付く」と話されました。グローバルに現代アートにチャレンジしている中で、大樋焼の本当に大事なものが分かったのだそうです。これに気付いてからは、初代の作品を見ても、「こういう思いで焼いていたのだ」ということが手を取るように分かるようになったと言います。
また“大樋焼”の長寿要因としては、金沢の在り方そのものに起因する、とまとめられました。
例えば大樋焼のお客さまが“つば甚”へ赴いた際には、“つば甚”は大樋焼が引き立つようなおもてなしを自然としてくれる。そして、大樋焼の方でも、お客さまが来る際には“つば甚”に料理をお願いする。そのようにして相互での補完関係が成り立っているからこそ、金沢には永く続いている企業が多いのではないか、と現当主は話されました。
金沢の内に秘めた文化、内側で成り立つ経済の仕組み、つまりは加賀100万石 前田家当主の政治こそが、金沢の長寿企業を生む基礎となっているのかもしれません。
大樋焼を後にした一行は、最後の視察先である“北國銀行”を訪問しました。北國銀行は地域密着型の金融機関として、石川県を中心に北陸3県の様々企業の永続をサポートしています。
今回は、北國銀行の取り組みと事業承継対策として実際に行っている施策について共有をしていただきました。
そして最後に本ツアーのまとめとして後藤代表理事の講義を行い、視察先での学びの復習や長寿企業の概要、ファミリービジネスの現状、長寿要因6つの定石、についてそれぞれお話し、盛りだくさんのツアーを締めくくりました。
参加者からは、
「実際に足を運んで話を聞く事が大切なのだと痛感しました。それぞれの当主からは生きる上での格言を教わり、そのような在り方を貫いているからこそ永く続いているのだと分かり、大変勉強となりました」
「1300年、400年と言えども、今を大切に日々一所懸命に次の代への橋渡しに努めている、その姿勢こそが長寿要因であり、だからこそ後継者問題で難しくなる一面があるのだとリアルに感じました」
「つば甚、大樋焼では、経営者として継続させていくものの責任感を強く感じ、法師旅館では今日一日をしっかりと生きていくことの大切さを学びました。全体を通して非常に学びの深い2日間でした」
などの感想をいただきました。
印象に残った内容は参加者によって異なりますが、総じて「なぜ、永く続くことが出来たのか」「永く続けるための秘訣は何か」のヒントを得たツアーとなりました。
次期ツアーは来年の春頃を予定しております。
訪問先や具体的な視察先が決定しましたら、追ってご連絡いたします。
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