2019年6月24日 UP
マネジメント

知られざる、近江“日野商人”の事実を探求! ~日本人固有の『和』の精神こそ、長寿経営の真髄~

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みなさん、こんにちは。
「次世代リーダーへ贈る、100年経営のすすめ」第11弾として、近江商人視察ツアーでの学びをレポートいたします。
 

「100年企業」と一口に言うのは簡単ですが、「100年企業」一社一社には現代に至るまでの様々なストーリーがあり、各社とも山や谷を乗り越え100年という節目を迎えています。本コンテンツでは、日本に3万5千社以上あるという「100年企業」それぞれのストーリーをお伝えすることで『100年続く普遍的な要因』を見出し、その学びを少しでも実務に生かしていただ きたい、という思いで配信いたします。それではご覧ください。
 

2019年5月16日(木)-17日(金)、当機構主催 第7回視察ツアーを開催いたしました。1年に2度行っている本ツアーは、長寿経営に関する資料館の視察や100年超企業の現当主にお話を伺う中で、“長寿経営の秘訣”を学ぶことを目的としています。
今回の訪問先は“近江商人発祥”の地として知られる 滋賀県 近江八幡。4年連続の訪問です。全国各地より経営者や研究者、官僚、専門家の方にお申し込みをいただき、総勢15名で開催いたしました。
近江日野商人の歴史と商法を伝える“近江日野商人館”、近江牛と共に140年超事業を続ける“毛利志満”、100年企業を目指して近江の環境インフラを守る“日吉”を視察し、「近江商人が長寿経営に与えた影響はなにか」「永く続けるための秘訣は何か」について学びを深めました。
 
一行は5月16日(木)午後に日野駅へ集合、近江日野商人館を目指しました。近江商人視察ツアーでは、これまで近江3大商人のうち、五個荘商人、八幡商人を中心に学びを深めてまいりましたが、今回初めて『日野商人』に焦点を当てツアーを実施いたしました。
近江日野商人館へ到着後は、お座敷にてオリエンテーションと講義を行いました。まず事務局から本ツアーの目的について説明を行い、次に参加者の皆様から自己紹介をしていただきました。
 

その後の後藤代表理事の講義では「7つの習慣と近江商人」をテーマにお話があり、昨今、7つの習慣と100年経営の親和性が注目されているが、100年経営にしかない大きな特徴に気が付いたとの共有があり、本ツアーの中でその答えをぜひ見つけて欲しいと宿題が出されました。
また、ツアーに初めて参加する方も多かったため、近江商人の特徴である「他国商い」の手法についても詳しく講義がありました。近江商人は皆、農民階級です。幕府直轄領である利点を活かし、最低限の年貢を収めた後のアルバイトとして、近江に伝わる伝統品や製薬、醸造の技術を他国へ伝えることで大きな利を生みました。近江商人は他国商いを主として、関東や東北、北海道、九州と全国で商売を行い、更には中国大陸にまで足を運んでいます。中でも日野商人は江戸中期頃に誕生したと言われ、主に日野椀・売薬・醸造・生糸を強みとして、関東を中心に他国商いを展開しました。
 

後藤代表理事の講義後は、近江日野商人館館長のお話を伺いました。
冒頭、館長より日野商人は3大商人の中で最も研究が進んでいない領域で、きちんとしたエビデンスがない中、イメージで語られていることが多いと強調しました。250年前の近江の大火事で書類が全て燃えてしまったことが要因です。そのため館長は、近江商人が他国商いをする中で立ち寄った宿場や実際に近江商人が作った酒蔵へ足を運んで調査を行い、知られざる日野商人の事実を究明しました。
近江商人は「八幡商人」を元祖とし、次に日野商人の誕生と一般的には言われていますが、八幡商人と日野商人の誕生時期は同一であり、他国で店を構えた数でいうと日野商人が圧倒的多数であるという事実を館長は伝えました。更には五個荘商人の出店は明治以降がほとんどで、近江商人と呼ぶには時代性が異なるのではと指摘しました。
日野商人が発展した要因は、ひとことで言うと『商売戦略が素晴らしかった』からです。日野商人の主力商品は「日野椀」。いわゆるお味噌汁を飲むような小型の漆器です。江戸時代、漆器は大変高価なものであり、農民階級が手に入れることなど到底不可能なものでした。そのため農民は食事の際、石で作られたお椀を使用していましたが、汁物をいれたまま数日保管しようものならすぐにカビがわいてしまい、それは洗ってもなかなか落ちず、衛生的にもあまり良くはない暮らしぶりでした。
その現実を知る日野商人は、安物の漆器として『日野椀』を大量生産します。比較的安価で手に入れることのできる日野椀は、田舎で暮らす農民に大変重宝され、行く先々の村で購入されました。つまり、日野商人は京都や大阪、江戸など人の往来がある都での商売を避け、日野椀の強みを生かして、田舎への販売網を広げていったのです。
近江商人は基本的に“つけ”で商売を行います。お代は農村が一番豊かな収穫期に回収するというスタイルです。今懐が寂しくともすぐ商品を手に入れることができる点も農民にマッチしており、日野椀は多くの村々へ広がりました。しかし、中には代金回収の際お金で支払うことが難しく、代わりにお米で収めてもらうことも多々あったと言います。そのように回収するお米がどんどんと増え「これらを上手く活用することができないか?」と始まったのが『酒造り』なのです。
近江商人は、水資源豊かな故郷で生まれ育ったため、高い醸造技術を持ち合わせていました。その技術力を活かして各地で酒蔵を開設。館長の調査では、関東近郊で日野商人が手掛けた酒蔵が1200件以上見つかっているそうです。
 

館長の講義の後は、2階の展示コーナーを視察しました。展示コーナーの情報量は圧巻で、一つ一つに館長の情熱とこだわりを感じました。中でも、近江3大商人一人ひとりの名前や人数、どの時期にどの地域にどのような出店をしたのかという膨大な記録には驚くばかりでした。他にも二宮尊徳翁直筆の領収書や日野商人発祥で現存する日本酒の銘柄一覧、日野商人の妻の手習いや役割などの展示に、参加者一同大変関心を寄せていました。
 

近江日野商人館にて充実した学びを得た後、一行は近江八幡にあるレストラン『毛利志満』へ向かいました。
毛利志満は明治2年創業。代々森嶋家が経営を担い、今回は営業部長の森嶋利成さんにお話を伺いました。冒頭森嶋さんは、なにごとも未来へスポットがあたる民主主義の時代においては、歴史を紐とき、歴史を語ることはなかなか流行らず反動も大きい。と話されました。しかし『毛利志満』として、近江牛を扱う会社としてどのようにあるべきかを考えた時に、「近江牛を伝えていくこと」が私たちの使命であることに気が付き、その伝える方法として森嶋さんは広報誌「ネノネ」を昨年刊行しました。近江牛の歴史や特徴、近江牛が織りなすストーリーを綴っています。また象形文字で作られた新パッケージを開発し、デザインを通して『毛利志満のオリジナルストーリー』を伝承。140年の歩みを可視化することを意識されています。
講話の後、参加者より『毛利志満の長寿要因』について質問がありました。森嶋さんは「近江牛を手放さなかったこと」と回答し、牧場・精肉・レストランと3つの業態を包括する毛利志満の強みを強調しました。

森嶋さんのお話のあとはお待ちかねの夕食会。毛利志満が有する自慢の料理人が調理した絶品料理を堪能しました。自然とお酒も進み、一同大満足で1日目の視察を終えました。
 


 
2日目は、近江八幡にて環境インフラビジネスを手がける『日吉』を視察しました。日吉は昭和30年創業。100年企業を目指す優良企業です。戦後、公衆衛生に課題を感じた創業者が「まずはごみ処理だ」と事業をスタートしたことを機に、現在は水質、大気、土壌の検査、上下水道処理施設の管理、工業薬品の販売を手掛けています。
中でも、日吉は環境教育に力をいれており、国内の大学を初め途上国からもインターン生を積極的に受け入れて、環境インフラを整える上で重要な役割を担う“技術者”の養成に力をいれています。社長の講義後は実際の研究室を視察し、『日吉』の誇る分析の現場を見学しました。
 

最後に、総括として後藤代表理事による講義を行い、参加者からツアー開始時の宿題について発表いただきました。後藤代表理事からはひとこと「7つの習慣は個人ありき。100年経営は次世代思考。」と回答があり、日本人固有の「和」の精神があるからこそ、近江商人も互いに助け合い成長してきたという事実を噛み締め、長寿経営において必要な哲学を腹落ちさせました。
 
(一社)100年経営研究機構では、年に二度視察ツアーを実施しております。ご関心のある方はぜひお問い合わせください。
 
 

(文責:VALMEDIA編集部ライター 遠藤あずさ)

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