2018年12月26日 UP
マネジメント

無駄を排除し、利益率の高い筋肉質な組織を作ることこそ肝要~日本的経営の学び舎Ⅴ~

TAG:

12月19日(水)、技術経営士の会 & VALCREATION 共催企画「日本的経営の学び舎」第五回目を開催いたしました。

日本的経営の学び舎は、戦後復興からバブル経済、第三次産業革命、リーマン・ショックを経験され、日本経済の最前線で活躍された「技術経営士」を講師に迎え、長い経験から得られた知見や知恵を「日本的経営」という切り口から、明日を担う若き次世代リーダーに向けて伝授いただく場です。

第5回目は、技術経営士の会 幹事であり、日本電設工業株式会社顧問・元代表取締役社長の井上健さんを講師に迎え、井上さんが社長職を10年間務めた中で実際に「考え実践したこと」についてご講話いただきました。

青年時代は昭和期の“想定外”を経験。

井上さんは1969年東京大学を卒業後、日本国有鉄道(国鉄)へ入社。1987年国鉄改革後には民営化されたJR東日本の新規事業に携わりました。

冒頭、井上さんより「人生の二つの“想定外”」についてお話がありました。一つ目の想定外は1969年4月に国鉄に入社する予定が、東大紛争のため教室が開かれず同年3月の卒業が難しくなってしまったことです。その際、国鉄の副総裁から呼び出しを受けて「なぜ紛争解決に活動しないのか?3月に卒業しないと採用しないぞ!」と脅され、なんとしても国鉄へ入社したい井上さんは、いわゆるノンポリ派の「工学部有志連合」の活動に付き合うようになります。そんなある日、ヘルメットとゲバ棒姿の機動隊が大学内へ進行しました。催涙ガスを噴射されて涙しながらも過激派と間違われては大変だと必死に学外へ脱出した経験を今でも鮮明に覚えているそうです。その後卒業は遅れましたが、なんとか同年7月に国鉄への入社を果たしました。
二つ目の想定外は、1987年に国鉄が民営化されたこと。この二つの経験を経て「どのような変化にも動じなくなりました」と井上さんは語りました。

 

反対多数の新規事業ほど成功する。

民営化後のJR東日本時代、井上さんは新規事業の提案を行います。新幹線の切符をクレジットカードで購入する現VIEWカードの原型となるサービスを導入しようと考えていました。しかし、新幹線切符を現金前払いで受け取っていたJRからすると「貸金業をやるのか?」というような批判が多く、課長クラスの会議を招集したところ約20名中賛同が1名という状況だったそうです。その時井上さんは「これは成功する!」と予感しました。なぜなら全員賛成の新規事業はうまくいかない、反対多数の新規事業ほど成功する。という信条を持っていたからです。その後、取締役会での説明や社外からのノウハウ取り入れなどを行い、VIEWカードサービスを実現させ事業成功へと導きました。

 

「人間力向上」と「本物志向」で強い組織体質へ。

日本電設工業株式会社の社長へ就任後には、井上さんは社内の組織改革に力を入れます。改革の基本項目は、大きく以下の3点です。
①人間力向上と本物志向の徹底
②利益率を向上させる
③無駄の排除

まず、井上さんは2000人以上いる従業員の方向性を一致させるべく、キャッチフレーズとして「人間力向上」と「本物志向」を掲げ、会議やスピーチ・社内報などあらゆる場面において発信を続けました。

井上さんの考える「人間力向上」とは、ある特定の能力を上げようということではなく、自分自身で自分に足りない人間力について考え、あるいは上司に相談をしてその不足分を補うように努力をしましょうという意味です。また「本物志向」とは、例えばAとBで悩んだ際にはどちらが「本物」かという基準で判断をしてほしいという意味で、本物を選んで失敗した際には上司が全力でカバーする社風を醸成しました。次第にキャッチフレーズは浸透していき、社員の口からも積極的に発信されるようになったそうです。

 

赤字受注を絶ち、利益率の高い筋肉質な組織を作る。

“利益率の向上”は井上さんが一番力を割いた部分です。バブル崩壊後は市場状況が厳しく、売上を増やすための赤字受注が多発していましたが、売上が上がれば上がるほど利益が下がるという悪循環を経つべく、井上さんはいくら株主総会で売上減のグラフを披露することになろうともこれは“経営者の忍耐”と心に言い聞かせてぐっと耐え、赤字受注を一切行わない決断をしました。そして、利益率を上げる“筋肉質な組織”を作るためにも“無駄の排除”に力を入れていきます。まずは経費節減をとことん行い、毎月の支店長会議では費用額の大きい項目から順に追跡調査を行うほどの徹底ぶりだったそうです。

また人事についても収益に直接関わる人員を増やし、管理部門は少数精鋭で回せるよう組織を強化しました。他にも自社用地で賃貸マンション事業をスタートし、鉄道以外の新規事業で売上を上げていきました。


後半、「日本的経営」についての項目では、企業の社会的責任(CSR)とは雇用の創出と納税であり、企業の存在そのものが社会貢献につながるということを忘れてはならないと強調しました。

 

参加者からは、
「現場で長い間実際に経営をされてきた方のお話は臨場感があり、大変勉強になりました。利益率の向上には大変共感しました。」
「人間力はよく聴く言葉ですが、自分が軸とする考えを大切にし、恐れずに突き進み改善していくこと、という言葉が刺さりました。」
などの感想をいただきました。

次回の「日本的経営の学び舎」は、年明け2019年1月16日(水) 餌取章男さん(日経サイエンス元編集長、科学技術館副館長)を講師に迎え、「技術革命が引き起こす変化と現代に求められる日本的経営」についてお話しいただきます。

次世代を担う志ある若手経営者、若手ビジネスパーソンのご参加をお待ちしております。

 

(文責:VALMEDIA編集部ライター 遠藤あずさ)

Related Article

「100年続く経営の要諦」
2015年10月13日(火)東京都千代田区にて、100年経営研究機構主催による「第1回東京研究会」が開催されました。 1…

2018年12月26日 UP

マネジメント

by Valmedia編集部