2017年5月2日 UP
マーケティング

雑誌『STORY』編集長が語る「オールドメディアの逆襲」

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2017年3月24日(金)東京渋谷にて、高倉塾主催による「第9回高倉塾オープンセミナー」
〜『STORY』編集長が語る〜「オールドメディアの逆襲」が開催されました。

 

今回は、『STORY』の為田敬編集長をお招きし、実際に『STORY』で行っているマーケティング手法やインターネットとの共存方法についてお話いただきました。
本セミナーは、為田さんと高倉塾長との対談形式で進められ、質疑応答の際には終了時間いっぱいまで多くの質問が挙がりました。為田さんにはどのような質問にも本音でお答えいただき、非常に内容の濃い有意義な時間となりました。

 

雑誌『STORY』とは?


為田 敬(Takashi Tameda)
雑誌『STORY』編集長
1963年生まれ。1987年上智大学卒業、同年㈱光文社入社。
以後、宣伝部~JJ編集部~DIAS編集部~企画広告部を経て、2006年よりSTORY編集部。
2011年6月より現職。

 

セミナーは、『STORY』の紹介から始まりました。
光文社『STORY』は2002年に創刊された40代女性をターゲットとするライフスタイル誌で、毎月25万部を発行し多くの方々に愛読されています。

「40代よ、街に出よう」というキャッチコピーで創刊した当時から、読者も様変わりし、いまや40代が街に出ているのは当たり前となっています。
専業主婦が約7割を占めていた読者層も、逆に働いている方が7割を超えているというデータがあるほど。
時代とともにこうした変化はありつつも、変わらないのは「40代」が転換点を迎え、新しいステージに上がる年代だということです。
子育てや家族のことが一段落して、やっと自分のことに集中して時間が使えるようになる40代。たとえばファッション、お肌、メーク、体、仕事、生き方……といった日常が変化し、自分を見つめ直す時期にあたります。
このような読者をターゲットとし、読者に寄り添い、悩みを一緒に考え、ポジティブな答えを導いていく雑誌が『STORY』です。
為田さんは2011年より編集長を務めておられ、あらゆるコンテンツがネット化している時代に、
500ページを超える誌面を毎月作成・発行しています。

 
 
 

価値観を“コトバ”で表現する

 
為田さんによると、「『STORY』は他社とは違うよね。」と言われることが多いとのこと。その背景にある差別化戦略こそが、読者を捉えて離さない要因のひとつとなっているのではないでしょうか。

一般的に、新たなターゲット層のライフスタイル誌を作る場合、「既存のファッション誌を元に、新たなターゲット向けのファッション誌を作る」ことを考えがちです。しかし、為田さんはそのような上辺だけの思考ではなく、『STORY』独自の差別化を展開されています。

例えば、40代になると体型を気にする女性が増えると言われています。特に現代はエクササイズやダイエットを行っている方も多く、体型維持に対しての動きは積極的と言える時代です。このように体型を気にする女性に向けた特集を組む際には、次のようなタイトルをつけます。

『気太りシーズンなのに「痩せた?」って言われる服』

「読者の悩みをきちんと“コトバ”にして、それに対する答えを示す雑誌にすることを常に心がけています。」と為田さん。
タイトルを言い換えると『着やせする服』という意味ですが、シチュエーションが確りと言葉にされていてイメージしやすくなっているのがわかりますね。

他には『いくつになってもワクワクする服』というタイトル。

ここでは「若く見える服」がコンセプトだったそうです。このように読者の心と思考に語りかけるような表現方法を使うことで、悩みの本質に直接アプローチすることを可能にしているのです。

加えて、為田さんは「価値観を“コトバ”で表現して伝えるということには、とことんこだわっています。」とのこと。ファッションブランドとコラボ商品を作る際にも、コトバで表現できる服を作ってください、と注文されているそうです。可愛い、オシャレなのは当たり前。いかに“コトバ”で表現できる服を作るか、ということが最も大切なことだと語っていただきました。

 
 

 
 

“『STORY』の読者”を考える

 
『STORY』では表紙モデルにも強いこだわりがあるそうです。これは光文社のこだわりでもあるそうですが、表紙モデルに関しては一定期間同じモデルを起用しています。理由は、読者が自分自身を表紙モデルに投影し、「モデルの変化を自分の変化として楽しんでいただけるように」というこだわりがあるからです。

編集長に就任した当時一番大変だったのが、次期表紙モデルの選定。当時の表紙モデルの方は、スタイルもよくどんな服でも着こなせるプロ中のプロ。そのモデルに勝るとも劣らない女性を探すべく、実際に様々なモデルの方に声をかけてヒアリングを行ったとのこと。しかし、その中で為田さんは「自分はこれまでと全然違う角度から選んだほうが良いのではないか?」と感じたそうです。

『STORY』の読者が自分自身を重ねることができ、ずっと応援したいと思う女性とはどのような人なのか。考え悩み続けた結果、見出した答えが現『STORY』表紙モデルの稲沢朋子さんの起用でした。稲沢さんは2児のシングルマザーで、これまでは子育てに励んでいたため、モデル経験はありません。

当時を振り返って「正直抜群のスタイルというわけではなく、モデルとしての素質は未知数でした。」と語る為田さん。しかし、一般の女性が第二のステージで頑張っている姿というのは『STORY』の読者に共感してもらえるのではないだろうか、という自身の考えを信じて、稲沢さんの起用を決められたそうです。

 
 
 

上司から教えられたマーケティングの原点

 
参加者からの質問の中で、特に多かったのは『STORY』が行う読者調査についてです。
マーケティングの世界では、「そもそも消費者に対して直接調査を行うことはナンセンスだ」との声もありますが、光文社では実際に読者からのリサーチによってニーズを汲み取り、特集を組んでいます。そのマーケティング方法が多くの読者から支持されている理由でもあるそうです。
為田さんには、読者調査の具体的な内情ついてお答えいただきました。

読者調査のポイントは「誰に聞くのか」という点です。「これが40代の平均だ、という人に聞いては実は意味がない」と為田さんは言います。そもそも光文社では読者とライター(スタッフ)の距離が近いという特徴があります。つまり、読者に近い層のスタッフをあえて揃え、「読者≠ライター≠スタッフ≠スタッフの周りの友人」という構図を作り上げているそうです。
これを活用して、スタッフの紹介などから読者調査の人選をすることが多いとのこと。『STORY』読者に近い立場の方とお会いするチャンスが多い環境を普段から整えているということですね。

さらに、読者調査と並んで必須で行っているのは「人間観察」です。
「人間観察」は為田さんがJJの編集部に在籍していた際の上司から学んだことのひとつで、JJがターゲットとする女子高生を観察することのできるちょうどいい場所、例えばカフェなどを見つけて一日中観察を続けていたこともあるそうです。当時はルーズソックスが流行った時代で、「靴は何を履いているのだろう」「靴下はどうなっているのだろう」と丸一日女子高生を観察したというエピソードを披露いただきました。

この教えを大切にしている為田さんは、「現在でも売れ行きが良くないときには必ず人間観察をしに町へ繰り出しますよ。どの場所を選ぶかというのもとても大切なポイントです。」と言います。OLファッションを担当していた頃に丸の内に出かけたところ、上司から浅草の問屋街へ行くように指示されたそうです。それは浅草のOLが読者であるということではなく、この企画を浅草のOLは支持してくれるか?という視点を肌感覚で覚えろという意味だったのです。
「マーケティングの原点に戻ってずれた感覚を修正するよう心がけています。」という言葉がとても印象的でした。

 
 

 
 

消費者の意思で選択されるモノを作る


高倉 豊(Yutaka Takakura)
元ウブロ・ジャパン代表取締役
1948年兵庫県生まれ。
自由学園男子最高学部を卒業後、1970年に博報堂に入社。入社5年目から、中東&欧州に計11年間に滞在。39歳で博報堂を退社。翌年40歳で外資系高級化粧品メーカー、パルファム・ジバンシイの日本法人トップに抜擢される。以降、イヴ・サンローラン・パルファンやシスレーの日本法人、外資系高級時計メーカーのタグホイヤーやウブロの日本法人、計5社の外資トップを20年間務める。その間、次々と自社の業績を回復させ、「ブランド再生人」として業界で有名になる。2011年6月末、ウブロ社長を辞任。
現在は、ビジネスコンサルタントとして活躍するかたわら、執筆・講演活動を行う。

 
為田さんのお話を受け、最後に高倉塾長より自身のサン・ローランでの経験をもとに、ものが売れるということは『ブランドが選択された』ことを意味すると解説がありました。
「口紅がひとつ売れたということは、消費者がシャネルやディオールではなくサン・ローランを選んでくれた、ということなのです。」と語りました。

高倉塾長の考えに共感された為田さんもご自身の想いを語ります。
オーバーストア・オーバープロダクト、多くの選択肢がある現代において、消費者がモノを買う行為は投票行動のひとつであり、その中でのメディアの役割は、消費者へ啓蒙活動を行うことであるというのが為田さんの見解です。

消費者がモノを選ぶこと自体が社会に必要な運動であり、選挙で支持するのと同じ感覚であるとのこと。特に日本人はフォロワー感覚が強く、「有名人が持っているから買う」、つまり真似して購入している人が多いという現状があります。
為田さんは「そのような現状があるからこそ、『STORY』は「読者の意志で選択させる雑誌」を目指しているのです。」と締めくくりました。

 
 
 

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