2017年10月3日 UP
マーケティング

高倉塾第11回オープンセミナー~雑誌『LEON』『GG』創刊者に学ぶ、マーケットの分析手法~

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9月27日(水)、東京 渋谷にて高倉塾オープンセミナーを開催いたしました。
今回のゲストは、男性ライフスタイル誌「LEON」初代編集長の岸田一郎さん。
岸田さんは、「LEON」以外にも「Begin」「GG」など10誌以上の創刊編集長をつとめ、特に2001年創刊の「LEON」は、40~50代男性をターゲットにしたライフスタイル誌として一世を風靡し「ちょいワルオヤジ」「ちょいモテオヤジ」を流行させたことで一躍有名となりました。
本セミナーでは、岸田さんの商品分析やマーケット分析、また今年6月創刊の「GG」のマーケティング戦略についてお伺いしました。
 

持っているとワクワクする“ラグジュアリー商品


岸田 一郎(Ichiro Kishida)
1951年大阪市生まれ。日本大学卒業後、「BIGMAN」創刊に参画するため世界文化社に入社。1989年、「Begin」を創刊し大ヒットへと導く。その後「Car EX」「時計Begin」などを創刊編集長として立ち上げ、いずれも大きな話題に。2000年、主婦と生活社へ移籍し、翌年9月に30~40代男性に向けた「LEON」を創刊。誌面のキーフレーズ“ちょい不良(ワル)オヤジ”が流行語大賞を受賞(2005年)するなど、男性向けライフスタイル誌としては未曽有のヒット作に。2017年、「あの頃40だったちょいワルオヤジもはや55歳!」と、50~60代の男性に向けに、新雑誌「GG」(ジジ)を6月に創刊。この「GG」に、これまで培ってきた編集長としての知恵や経験のすべてを注ぎ込んでいる。

岸田さんは、開口一番「ちょいワルオヤジが来たぞ。と皆さん思ったでしょうが、根は誠実な男ですので勘違いしないでくださいね」という一言で会場を和ませ、講演を始めました。

冒頭、岸田さんの扱うメイン商品である“ラグジュアリー商品”について説明がありました。
ラグジュアリー商品とは、例えばHERMESやGUCCI、車で言えばメルセデス・ベンツ、時計で言えばRolex等が挙げられます。岸田さんがこれまで携わってきた雑誌では、これらのラグジュアリー商品を伝達し、リコメンドする紙面を多く制作してきました。

ラグジュアリー商品の特性は、まず“生きていく上で特に必要な商品ではない”ということです。
ルイヴィトンのバッグを持っていなければ仕事へ行けないということはなく、ノートPCや書類が入る鞄であれば問題はありません。メルセデス・ベンツも、必ずしも乗らなくてはいけないというわけではなく、トヨタでも勿論良いし、車を持たない、という選択肢もあります。
それでは“ラグジュアリー商品”の利点とは何なのでしょうか。それは、持っている、乗っている、手にしている、という現象が当人を“ワクワクさせる”ということです。そして、持っているだけで他人との差別化ができ、大きな満足感をもたらします。

岸田さんは、この“生活に必要ではないラグジュアリー商品”をどのように伝えていくか、どうしたら欲しがってもらえるのか、それを常に考え、突き詰めてこられました。
 

岸田流!
現代の50~60歳マーケット分析!

ここ50年の間でラグジュアリー商品に対する価値観は大きく変化している、と岸田さんは言います。
岸田さんが6月に創刊した雑誌「GG」のターゲットは50~60代の男性です。岸田さんが「LEON」を創刊し、「ちょいワルオヤジ」のムーブメントを作り上げたときにちょうど30~40代だった世代です。現在60代の彼等がどのようなニーズを持っているのか、それを知るためには彼等がどのような時代を生きてきたのかを振り返る必要があります。そうすると、彼等が如何に日本経済の良いところ取りをしてきたのかが分かります。

まず、生まれてすぐに朝鮮特需があり、9~10歳頃ビートルズが来日します。その頃、雑誌「メンズクラブ」が創刊され、ファッションの分野では「アイビーブーム」が訪れました。その後、学生時代後半には「西海岸ブーム」が訪れ、アメリカ性のアウトドア商品が爆発的にヒットします。日本人もかっこいい欧米人のようにならなくてはいけない、という風潮が強まった時代です。そして、20代前半では高度経済成長、その後バブル崩壊と続いていきます。
色々な物が一気に日本に入ってきた時代。おもちゃや自転車を買ってもらうのが当たり前の時代。むしろ、おもちゃのランクを見て、どの家が偉いのかが明確にわかってしまう。そのため、お金をかけて見栄を張る、そのような価値観が根付いた世代ともいえます。

因みに、その一つ前の世代は戦中・戦後の激動を生き抜いてきた世代なので、ラグジュアリーには全く興味がありません。贅沢嫌悪、倹約美徳、という時代です。財産があっても使わずに残していく方が多かったと言われています。
そして、今の若者世代もまたラグジュアリーに対する意欲はそこまで大きくありません。それは「消費に後ろ向きだから」という理由ではなく、民度があがってきたからだと岸田さんは捉えています。
今の若者世代は生まれた当時からラグジュアリー商品が身の回りに溢れており、「ベンツが買える!」ということをそれほど珍しく感じていない世代です。そのため、ラグジュアリー商品を手にすることは嬉しいが、何十回もローンをしてまで欲しくはない、という意識レベルが平均です。

それに対して、現代の50~60歳の世代は、アイビーブームから始まって、時計ブーム、車ブーム、バイクブーム、ワインブーム、イタ飯ブーム、フレンチブームなどあらゆるブームをこなしてきた世代です。民族的にも、この世代は色々なラグジュアリー商品が初めて日本に入ってきて、「あのベンツが買える!」ということにワクワクした世代です。物欲消費文化にどっぷり浸かった世代とも言えます。そのため、今の50~60代のラグジュアリー層にはまだまだ物欲が残っているのではないか、と岸田さんは考えておられます。
 

「金は遺すな!自分で使え」を実行してもらうための提案方法

ラグジュアリー商品に対する各世代の意識を共有したところで、岸田さんから雑誌「GG」のコンテンツについて紹介がありました。
まず岸田さんは「GG」の読者層を大きく「コンサバ編」「アグレッシブ編」と分けて、年齢、職業、住まい、趣味、休日の過ごし方、持っている車、消費パターンなど事細かに設定します。そして、彼等はどのような提案をすれば心を動かしてくれるか、ということを徹底して考えるのです。ページ頭のキャッチコピーは勿論、商品の提案方法が非常に大事だと岸田さんは言います。

「GG」の読者層は頭の片隅に「自分はあと何年生きられるのだろうか?」という不安を抱えています。故にその気持を無視せず、むしろ応援するような提案が必要となります。
例えば、時計を提案する場合、普通にこの時計かっこいいですよと提案しても「もう時計なんて数十個持っているからいらない」と思われて終わってしまいます。そのため「遺すための時計」というコンセプトで自身も身につけながら、家族へ遺していける時計を準備しておきませんか?と提案をします。そうすれば、新しくラグジュアリーな時計を買おうかな、という気持ちになってくれるかもしれません。
旅の提案をする際も、「行かずに死ねるか」というコンセプトの元、奥様と二人で足腰にあまり負担をかけずに楽しめる旅行を提案しています。
雑誌作りは、新製品を掲載し解説するだけではなく、抱えている読者の琴線に刺さるコンテンツを作らないといけない、と岸田さんは強調しました。
雑誌業界全体が落ち込んでいる現在において、一般全体とは違うラグジュアリー好きな読者に刺さるコンテンツを作り、掲載商品にワクワクさせて、欲しがるような結果に持ち込み、その影響力の中でメーカーからの広告を頂く、というビジネスで岸田さんはこれまで成功してこられました。

 

信念と計算と自惚れが意思決定の基準


高倉 豊(Yutaka Takakura)
元ウブロ・ジャパン代表取締役
1948年兵庫県生まれ。
自由学園男子最高学部を卒業後、1970年に博報堂に入社。
入社5年目から、中東&欧州に計11年間に滞在。39歳で博報堂を退社。翌年40歳で外資系高級化粧品メーカー、パルファム・ジバンシイの日本法人トップに抜擢される。
以降、イヴ・サンローラン・パルファンやシスレーの日本法人、外資系高級時計メーカーのタグホイヤーやウブロの日本法人、計5社の外資トップを20年間務める。その間、次々と自社の業績を回復させ、「ブランド再生人」として業界で有名になる。2011年6月末、ウブロ社長を辞任。現在は、ビジネスコンサルタントとして活躍するかたわら、執筆・講演活動を行う。

一通りの説明の後は、参加者からの質疑応答の時間が設けられました。参加者からは、
・「ちょいワル」というコトバはどのようにして生み出されたのか?
・現代の若者がラグジュアリーに関心が薄いのは、バブル経験の差なのか?
・「LEON」創刊のとき、こんな雑誌を買う人がいるのか?と言われたとき、何故いると思いきれたのか?
などの質問が上がりました。
その中で岸田さんは、これまで多くの雑誌創刊に携わる中で、最後は“信念と計算と自惚れ”を基準に意思決定をしていると話されました。“ラグジュアリー”というコンセプトで大部分の消費者をターゲットにしたら確実に失敗するが、「Begin」の編集長をつとめていたときに、ラグジュアリーの層がいることは分かっていたので、ニッチに攻めればいける、という計算のような自惚れがあった。だから「LEON」創刊に踏み切ったと当時を振り返りました。「GG」を創刊した理由も同じ想いからだと言います。
最後に高倉塾長からは、今出版業界はどこも苦しく、紙媒体からネット媒体へコンテンツを移行する所も多いが、「GG」のようにターゲット層が明確なメディアはこれから紙媒体としてしっかり生き残っていくと思う。これからの更なる活躍を期待しています。
と総評がありました。

「GG」はまだ今年の6月に創刊したばかり。岸田さんの挑戦はまだまだ続きます。
岸田さんの雑誌編集の技法、マーケティング手法については実際に「GG」をご覧いただければリアルに学ぶことができます。
今回のセミナーでは、マーケットの分析手法からコンテンツを作成する際のポイントについてお伺いしました。参加者の皆様にも、今後の参考になったのではないでしょうか。

岸田さん、素晴らしい講演ありがとうございました!

投稿者プロフィール

Valmedia編集部

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