- 2017年6月30日 UP
- マーケティング
高倉塾第10回オープンセミナー ~「世界一のブランド」が生まれるまで~
6月22日(木)、東京 渋谷にて第10回高倉塾オープンセミナーが開催されました。
今回は、「共働学舎新得農場」代表の宮嶋望さんにお越しいただきました。宮嶋さんは、心身に不自由さや悩みをもち、家庭や職場、学校になじめず心の置き場を失った人たちを積極的に受け入れながら、他にはない特徴的な農場経営を実現。宮嶋さんが作るチーズは国際大会で数々の賞を受賞し、世界一のチーズとして評価され続けています。今回は、宮嶋さんがどのようなこだわりや考えを持ち経営を行ってきたのか具体的な事例を元にお話しいただきました。
宮嶋さんの大変明快かつ情熱的な人柄により、非常に活気あふれる場となりました。
共働学舎のスタート~競争社会ではなく、協力社会を作りたい~
「共働学舎」は宮嶋さんのお父様が構想を描き、心身にハンディのある人たちの「自労自活」をモットーに1974年に創られました。「競争社会ではなく、協力社会を作りたい」という想いで共働学舎の考えを打ち出したところ、何千万という寄付が集まり、思い切って事業をスタートしたそうです。
一方宮嶋さん自身は、「心を閉ざした人は、動物と接することで心を開くかもしれない」と思いつきます。学生時代、宮嶋さんは長期休暇の度に、岩手で酪農を営む先輩の農場へ遊びに行っては、自由を謳歌していたそうです。そこでの暮らしを思い浮かべ、酪農ならば共働学舎の構想を実現しつつ、継続した事業として発展していけるのではと考え、大学卒業と同時に酪農を学ぶため4年間のアメリカ留学へと旅立ちます。
集まってくる人たちは“メッセンジャー”
留学から戻った宮嶋さんは「十勝地方にある新得の敷地30ヘクタールを無料で貸しだします」という申し出を受けて、1987年に共働学舎の4番目の農場として新得農場を開墾します。当時6名でスタートした農場は今では75名を超えるまでに成長しました。
共働学舎では、皆違う障害のほうが一人ひとりのポテンシャルを活かしていけるという考えがあります。障害が違えば、それぞれ異なる視点から物事を捉えることができ、活かせる仕事も多いかもしれない、との思いからです。その考えのもと、新得農場では、自閉症やアスペルガー症候群・ホームレス・弱視・統合失調症・ホルモン異常症など多種多様な人が居場所を求めて集まっています。しかし、国の補助金は同一障害の方を集めた団体にしか適応されないため、新得農場では社会福祉関係の補助金は一切受給していないそうです。それでも、多種多様な人を受け入れるというコンセプトを変えずにこれまで続けてきました。それは一人ひとりのポテンシャルを活かし、平和に生活できる仕組みづくりがしたい、という思いがあるからです。
新得農場に集まってくる人たちは、“メッセンジャー”であると宮嶋さんは考えています。以前宮嶋さんはマザー・テレサと話したことがあり、そのとき「一番弱い立場の人達が必要としていること。それを届けることが神から与えられた使命」という言葉を聴き、「彼らは次の世の中に必要なことを伝えに来ているメッセンジャーなのだ」と心から感じるようになったと言います。新得農場には毎日のように問い合わせがくるそうですが、それは社会の仕組みが何か歪んでいるというメッセージなのだと。
新得農場では、皆が自由に自分の仕事をしています。自分のことは自分で決めて、責任を持って行う。その中で、社会復帰に至った方も多数います。
私たちにできること、私たちがしなくてはならないことは、次の社会に必要なことをノウハウとして伝えていくこと。と宮嶋さんは語ります。
周りからの応援が次への一歩となる
では宮嶋さんはどのようにして新得農場で世界最高峰のチーズ作りに成功されたのでしょうか。
宮嶋さんは、フランスチーズ界の第一人者であるジャン・ヒュベール(Jean Hueber)氏のアドバイスを実践した結果、質の良いチーズ作りにたどり着いたといいます。ヒュベール氏のアドバイスは一言、「乳を運ぶな!!」ただそれだけです。
この教えは科学的に立証された、チーズ作りに最も重要な言葉でした。「乳を運ぶな」とは、牛から採った乳を機械で運んではいけない、ということ。牛乳を機械で運ばないことにより、素材そのもののエネルギー・味を提供できるのだと。
それを実現するためには、農場の大幅な設備改革が必要でした。資金もさることながら、設計を実現するにあたって保健所の許可が必要となります。機械を通さない設備では、臭いや汚水の問題が発生し、食中毒のリスクも高まります。それについて言及された際、宮嶋さんは「炭と微生物で解決できます」と言い切り、半ば喧嘩腰で向き合いました。すると保健所の所長は「やってごらん」と優しく言ってくれたそうです。厳しく問い詰めるわけでもなく、資料を請求するわけでもなく、許可してくれたのです。何故、そう言ってくれたのか、それは共働学舎、そして新得農場の取り組みを知っていたからに他なりません。「応援したい」「頑張ってほしい」と周囲から思われる農場に成長していたからこそ、所長は一緒にリスクを背負ってくれたのです。
「活きている場」を作ることで、「ほんもの」を実現する
そこから機械に頼らない手作りのチーズ作りが本格的にスタートしました。そもそも、新得農場には機械は使えない・難しいことは分からない・コンピュータも使えない、そういう人が集まっていたため、コンセプトにも合致した取り組みでした。
一時期、商品名に「ほんもの」とついたら売れるという、「ほんもの」ブームが起こっていました。そのブームも落ち着いた頃、名前だけではなく本質に目を向けた「ほんもの」嗜好が高まっていきました。日本人が思う「ほんもの」の本質とは、「自然からの恵み」「自然からの贈り物」という意味だと理解した宮嶋さんは、機械という人的なものを外し、素材のエネルギーそのものを活かしたチーズ作りにこだわりました。
その過程で、宮嶋さんは「食べ物に良い環境要素は、動物・農作物・人間などあらゆる生き物に同じなのではないか」と気付きます。つまり、生き物は皆「活きている場」で「ありのままであること」を求めているのです。
人間が、満足感・幸福感・充実感を感じる要素も同じです。自分は何のために生きているのか。自分の存在を周りの人に肯定してもらえているか。それらを満たしている人は、自分の持つ力を100%仕事へ発揮してくれるのです。
宮嶋さんの話しを聞いた参加者からは、
「もっと自然にありのままに生きていける社会にしなくては、
と感じた」。「こういう取り組みをされている人がいることを知らなかった。ダイバーシティのヒントをもらった気がした」との声があがり、
高倉塾長からは、
「正直総括するのが難しい。なぜなら、新得農場の取り組みは、望さんじゃないとできなかったから。技術が先か、こうしたいという想いが先かと考えると、新得農場の場合は想いが先にあるのだと思う。こういう風な社会を作りたい、というお父様が考えられた構想、ハンディキャップを持った人で実現するためにはどうすればよいのか、ということを精神論ではなく科学的に上手にやられているから頭が下がる思いです。今後の課題は望さんに代わる人財を教育して行くことかと思います。」と話しがありました。
あらゆるグランプリでの受賞から、開墾当時とは比較できないほどの社会的認知を得た新得農場。「“望(のぞむ)”という名前の通り、今後も希望の光を持ち続けて更に頑張っていきます!」という意気込みを宮嶋さんにお話しいただき、大盛況のうちに閉会となりなした。
宮嶋さん、素晴らしい講演ありがとうございました!
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